アバージェンスマネジメント研究所
ファウンダー 大西 秀亜
昨年、2023年は後世において、生成AI普及元年として位置付けられる年であろう。最早、人間がテクノロジーと勝負することがナンセンスなのかもしれないが、人間に残る優位性を考えるときに私が思うことは、「視点を持つ」ことである。AIを使うにしても、起点となるのは使用者の「視点」であり、それによってAIを使用した結果は異なってくるだろう。より良い(判断基準は「良い」ではないかもしれないが)視点を持てるようにとの願いのもと、本稿を書き進める。
私は常々、
- マネジメントとは「チームで成果を出す」こと
そして
- リーダーの重要な役割は「メンバーの成長を実現する」こと
と捉えている。
メンバーが成長し、チームの戦力アップにより成果が増大するならば、それは美しいポジティブ・スパイラルとなり、経営者を含む管理職が目指すべき状態と言える。しかしながら、この二つを同時に実現することはとても難しい。まず、マネージャーは、これがとても難しく、自分自身が全力で努力する必要があるということを認識しなければならない。
「チームの成果」と「メンバーの成長」は二律背反する。メンバーが成長するためには、現在の力量よりもレベルの高い仕事に挑戦する機会を与えなければならない。そして、その挑戦において、努力し、工夫し、プレッシャーに打ち勝つ精神力を向上させられれば、成長が実現する。一方でこれは挑戦なのだから、当然失敗するリスクも大きい。そして失敗は「チームの成果」を脅かす。
しかも失敗は一つではない。
メンバーの視点で言えば、「成長に繋がる失敗」と「成長に繋がらない失敗」があり、チームの視点からは「成果を大きく毀損しない失敗」と「成果を大きく毀損する失敗」がある。
マネージャーの役割は、メンバーの成功を支援することと、失敗したとしてもその失敗を「成長に繋がり、成果を大きく毀損しない失敗」となるようにマネジメントすることである。私はこれを「コントロールされた失敗」と呼ぶ。
失敗したとしても、それが「コントロールされた失敗」の領域に着地するためにマネージャーとして心がけたいことがいくつかある。
1. 自分ができないことはさせない
自分でできるかどうかわからないということは、その結果をコントロールできないことである。それを自分より力量の低いメンバーに任せては、失敗したときの悪影響がさらに大きくなる可能性を認識しなければならない。普通に考えれば、そんなことはしないと思うが、与える仕事の難易度について吟味しないまま、渡してしまうマネージャーは少なくない。
2. 役職を免罪符としない
成長を促すための抜擢人事、あるいは中途採用でそのポジションに就いたケースの落とし穴は、その役職相応のパフォーマンスが発揮されて当たり前と考えてしまうことである。本当はその人の力量を見極めて、適切な支援を行わなければならないのに、マネージャーが自身に都合よく、役職を免罪符としてしまうことは少なくない。
3. 手を離しても目を離さない
子育ての心得として知られる「子育て四訓」の中に「少年は手を離せ、目を離すな」という一節がある。権限委譲という名の下に、手も目も離してしまう。うまく行っているかどうかわからず、困難な局面で手を差し伸べることもできない。問題が発生しても、対応が後手に回り、成果への悪影響が増大する。目を離さないことに将来予測も含まれる。そのメンバーの行く手に、崖や障害物が無いか見てあげる。成果を大きく毀損するような障害物は、事前に伝えておかなければならない。「コントロールされた失敗」で済むのなら、あえて失敗させる選択肢も取り得る。
4. 情に流されない
難しい仕事に挑戦しているメンバーに対して、「情」を感じない人は少ないであろう。結果が出なくても、「もう少しやらせてみよう」と思う。プロ野球で、将来有望な若手を4番バッターとして起用し続けるといった采配を見ることもある。
口を出したり、手を出したりすると、本人のやる気を損なうと心配することもある。正しいやり方でやっていれば、あるいは正解に近づいているのなら、もう少し見守るというのは悪くないが、そうではなく、やり方が間違っていたり、目標地点から遠ざかっているのなら、それを伝えて軌道修正することに躊躇があってはならない。少なくとも「コントロールされた失敗」の領域に着地させるためには、情に流されてはいけない。
こうして成果と成長を追い求めるためにマネジャーがなすべきことを見てみると、一人のメンバーに対して、考え、観察し、関わるだけで、大変な体力が必要であることがわかる。メンバーの数が増えれば増えるほど、大変になるが、マネージャーひとりの体力と時間は有限であることも厳しい現実である。
この厳しい制約条件の中で、マネジメントにおいて大切なことは何か?
成果も成長も100点満点を目指すことが理想である。しかし、その組織の置かれた状況(外的・内的環境)に応じて、どのようなバランスで取り組むのか、その最適な均衡点を意識することだ。私はその均衡点を「組織の重心」と呼んでいる。
簡単に言えば、成果と成長のバランスを5対5とするのか、6対4とするのか、成長を4としたとき、メンバーの成長ストレッチをどのように設定するのか、ということを考えることだ。 組織の外的・内的環境は、会社全体の方針の変更、メンバーの入れ替えなど、常に変化に晒されている。それらに対して、どのように組織の重心を最適なポジションに変化させていくかが、マネージャーに与えられた試練であり、醍醐味かもしれない。