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マネジメント・レポート MANAGEMENT REPORT

ドラッカーとマネジメントと
ワタシ

アバージェンスマネジメント研究所
主席研究員 広川周一

Management Consulting

私が最初に入社した外資系コンサルティング・ファームでのことです。入社直後、日本支社で一番偉いアメリカ人の副社長が私に向かってこう言いました。

”From now on, you should think and act like a professional management consultant.(今後はプロの経営コンサルタントとして考え、振る舞いなさい)”

”I am aware of it, sir.(承知しております)” 私はそう答えました。ただ、考えていたのは(へぇ、経営コンサルタントって英語ではマネジメント・コンサルタントって云うのかぁ)というごく単純なことでした。

本当にヘナチョコだったなぁ、と自戒します。私のルーキーコンサルタント時代の不出来ぶりはYouTube動画でも公開されていますので、宜しければご笑覧ください(*1)。

マネジメントといえばドラッカー

副社長からそう言われて以来、マネジメントという言葉が選択的に私の目に飛び込むようになりました。そして時を待たず、かのピーター・F・ドラッカー氏を知るに至りました。『マネジメントの生みの親』や『マネジメントの父』と呼ばれるドラッカー氏。「どんなことを語っているのか、理解し咀嚼しなければならない」。そう思い、書店に駆け込みました。

書籍の数に圧倒

ドラッカーを学んだことがある方なら、覚えがあると思います。ドラッカー氏が上梓した書籍は山のようにあり、いったいどれから手を付ければいいのかがわからない。私の場合はドラッカー氏の書籍が並ぶ棚の前で小一時間ほど過ごし、手に取り目を通しては棚に戻す、を繰り返した後、「ドラッカーを読むのは、もう少し他の勉強をしてからにしよう」と諦めて家路につきました。今でこそ、『もしドラ(*2)』など読みやすい書籍が出ていますが、私のルーキー時代にはありませんでした。 ということで、読んでもいないのに打ちのめされた、これが私のドラッカー氏との出逢いでした。

8年後の再開

ドラッカー氏の書籍にはあたれず仕舞いのまま、コンサルタント業に従事して約8年が経った頃、『エッシェンシャル版マネジメント(*3)』が日本語訳されました。「エッシェンシャルなら読めるかも」と思って購入し、むさぼるように読んだ記憶があります。20世紀に上梓された原著のエッセンスを拾い出したものなので事例が古かった記憶がありますが、全く気になりませんでした。むしろ、ドラッカー氏が主張するマネジメントの本質とは、時代を超えて真なるもの、と強く感じました。

それ以降、ドラッカー氏に私淑したかのように次々と別の書籍を読んでいきました。

ドラッカー氏の言葉からは、たくさんの示唆と洞察を得たつもりです。難しい書き方になっているところは、自分なりの理解に達するまで何度も読み返しました。

そんな中、ひとつだけ、困ったことがありました。ドラッカー氏の至言はわかっているつもりなのに、それを自分の言葉で簡素に表現できない、シンプルに整理してサマライズできないのです。

経営コンサルタントとしてある程度の経験を積み、それなりのポジションにいた当時の自分にとって、それは恥ずかしいことでした。「ドラッカー氏が唱えるマネジメントとは何か?」を自分の言葉に換言することができない。換言してみても陳腐になってしまい、「ドラッカー氏はこんな軽薄なことは言っていないはずだ」と落胆するばかりでした。

複雑なことは複雑なまま

それからしばらく経ったある日、知人の紹介でドラッカー氏を研究している方とお話しする機会を得ました。たくさんのことを教えてもらいましたが、最もためになったのは次の言葉でした。「複雑なものは複雑なまま取り込む。それでいいんじゃないですか。もしマネジメントがあなたが求めるように簡易に表現できるのなら、ドラッカー先生はあれほどの著作を書いていないと思いますよ」。

まさに目から鱗でした。複雑なことは複雑なまま取り込む。それでいい。自分はこれからもマネジメント・コンサルタントとしての学びを続け、自分なりのマネジメント観なり論なりを紡いでいけばいい。マネジメント・コンサルタントを生涯の生業にしよう、と心に決めたのもこのときでした。

学びの一端

ドラッカー氏のマネジメント考は数えきれないほどの才筆を通じて、私たちに届けられています。なかでも私がずっと大切にしている文章を前述の『エッシェンシャル版マネジメント』からいくつか紹介します。

ドラッカー氏かく語りき|その1

組織として高度の成果をあげることが、自由と尊厳を守る唯一の方策である。その組織に成果を
あげさせるものがマネジメントであり、マネージャーの力である。成果をあげる責任ある
マネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から
守る唯一の手立てである

私は、「われわれを全体主義から守る」という言質にリアリティを感じる世代ではありませんが、組織として高度の成果をあげることが自由と尊厳を守る唯一の方策である、という言葉には今でも尊崇の念を覚えます。

まわりを見渡せば組織のなかで目指した成果を手にし、誇り高く生きている人々がたくさんいます。自由と尊厳という概念を日常的に意識しながら生活している人は少ないかもしれませんが、組織の仲間と一緒に挑戦することが「何でもできる!」という活力や「自分たちって結構イケてるよね!」といった実感を生み出すことに異論を持つ方は少ないでしょう。まさに自由と尊厳です。

ドラッカー氏かく語りき|その2

企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。
企業の目的とは、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。
企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。

ドラッカー氏の慧眼を最も端的に表す言葉として、あまりにも有名な文章です。企業の目的イコール顧客の創造は、その出自を知らない人々でも耳にしたことがあるほど流布しているでしょう。

企業の目的定義は顧客創造しかない。なぜそう言い切れるのか。ドラッカー氏の主張を精読し、世の中の企業を見つめ、またドラッカー氏の主張に戻る。これを繰り返せば自ずとこの名言の正統性がわかってくるでしょう。

例えばあなたが、なり立ての事業責任者だとします。何を職業上の目的にしますか。事業計画の達成ですか、中期事業戦略の完遂ですか、それとも事業部メンバーの自己実現ですか。

事業計画達成も中期事業戦略完遂も事業部メンバーの自己実現も、顧客の創造なしには成り立たないはずです。

「事業成果に関することに顧客創造が関係するのはわかるが、自己実現に顧客は関係ないだろう」という声も聞こえてきそうです。

そんなことはありません。少なくともビジネスでの自己実現に顧客が登場しないことは考えられません。ビジネスが創造する価値は顧客に向けられたものであるべきであり、その価値総体を生むコストを負担するのは顧客です。

ビジネスという縛りを無くしたとしても、広義に捉えた『顧客』が関わらない自己実現は想定しづらいです。人間は社会的動物であり、社会の最小単位はエージェントとクライアントの関わりだからです。

親子だって脈略次第で互いにエージェントになり、互いにクライアントになるではないですか。子育ては親がエージェントで子供がクライアントなのが基本形ですが、子育てを通じて家族の信条を継承する行為においては子供がエージェントで親がクライアントになります。

親子という最も緊密な関係においても顧客が登場するのであれば、友人関係やコミュニティ関係ともなれば尚の事、顧客の存在が色濃く出てくるはずです。

ドラッカー氏かく語りき|その3

企業とは何かを決めるのは顧客である。なぜなら顧客だけが、財やサービスに対する支払いの意志を持ち、経済資源を富に、モノを財貨に変えるからである。しかも顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である。
企業の目的は顧客の創造である。したがって企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。
それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。

企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションだけ。しびれるほどシンプルです。

マーケティングとイノベーション。

マーケティングとイノベーション。

マーケティングとイノベーション。

私はクライアント企業の中期経営計画策定を支援するときも、既存事業の停滞を止めるプロジェクトを行うときも、ルーキー向けにビジネス基礎を講じるときも、必ずこの定義に戻り、自分が描く構想の下図にしてきました。数十年の時を経て、その信憑は私にとって確固たるものになっています。

皆さんもご自身の事業をメタに結晶化する思考実験をしてみるとわかると思います。最後はマーケティングとイノベーションに行き着くはずです。

ドラッカー氏、マネジメント、ワタシの学び、そして皆さんの学び

私はマネジメント・コンサルタントになってから今日まで、約3,000冊の本を読んできました。均せば1年で100冊くらいのペースです。恐らくそのうちの半分はマネジメントに関する書籍です。残りの1/4がオペレーションに関する実務書、残りはその他もろもろです。

ほとんどをPDF化するか処分するかしてしまったので、手元には数百冊程度しか残っていません。しかしドラッカー氏の書籍はそのままとってあります。今でも読み返します。読み返すたび新しい本に出逢ったような喜びを感じます。それくらい中身が濃い、宝箱のような書籍である、といえます。

皆さんもドラッカー氏の書籍を通じてその潜思と詳察に触れ、宝箱を満たしていって下さい。


*1:https://www.youtube.com/watch?v=Sl35Tr9EKrY

*2:もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(2009)岩崎夏海、ダイヤモンド社

*3:マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則(2001)ピーター・F・ドラッカー、ダイヤモンド社