事例紹介 / CASE STUDY

AIM コラム COLUMN

マネジメントにおけるマイクロとマクロのバランス

『マイクロ・マネジメント』について考える

皆さんは『マイクロ・マネジメント』という言葉を聞いたとき、どんな印象を持ちますか?「箸の上げ下げまで指示される」、「重箱の隅をつついてばかりいる」。いい響きではないですよね。きめ細かくマネージすること自体は、決して悪いことではないのに、『マイクロ・マネジメント』と聞くと悪い印象しか思い浮かばない。なぜでしょう。

マイクロ・マネジメントの5W1H

まずマイクロ・マネジメントとは、どんなとき、誰によって、どのようになされるものなのか、つまりマイクロ・マネジメントの5W1Hを考えてみましょう。

『誰?』はマネージャーですね。『誰に対して?』は部下ですね。『何について?』は、きっと部下の方々の行動や実績についてでしょう。『どんな時/場に?』は会議や業務報告など決められた管理業務の場面のほか、日常的なやりとりでも出てきそうです。

どうやらWho, Whom, What, Whereレベルでは悪さをしていないようです。

ネガティブなのはHOWとWHY

次に『どのように?』をチェックしましょう。重箱の隅について箸の上げ下げまでチェックされる。ネガティブですね。

マイクロ・マネジメントの響きの悪さの一端はHOW(どのように)にあるようです。「そんな細かいことまで突っ込まれちゃ、やる気なくなるよ…」、「結局、自分は上司のコマでしかないんだ…」、「そこまで言うなら自分でやったら?」…部下の方々の声が聞こえてきそうですし、同情してしまいます。

では、『なぜ?』マネージャーはマイクロ・マネジメントをするのか。このWhyについて考えてみます。

責任感の誤作動

マイクロ・マネジメントするマネージャーは、自分が率いるチームの成果にこだわっている方といって間違いないでしょう。成果にこだわるから執拗に重箱の隅をつつく、細かな方法論まで口出しする、自分だったらこうやる、を極端に押し付けてしまう。

チーム成果創出に必死であることが、部下への信任や移譲を無視するかたちで誤作動しているようです。成果にこだわるのは良い事なのに、方法論が間違ってしまっている。Whyの暴走とも云えます。

マイクロ・マネジメントの対極

マイクロ・マネジメントが悪いものなら、その対極を目指せばいいのでしょうか。マイクロの反義語はマクロ。マイクロが「非常に小さいこと」で、マクロは「極大なこと」です。でもマクロ・マネジメントという言葉はあまり耳にしません。

なぜなら別の表現が一般的だからです。別の表現とは『放任』です。

放任ならいいの?

「私は細かなことは任せる。とにかく大目標達成に向けて、それぞれが自分でやるべきことを考え実践しよう」と年初に言い切ったまま、お任せのまま一年が過ぎる。放任の極例です。

部下の立場で考えれば、信じて任せてもらいフリーハンドでできるオープンなマネジメントスタイルです。信任されたら悪い気はしません。「よし、頑張ろう」というポジティブな態度になりやすいです。

そんなポジティブな態度で仕事に向き合っているうちに、難題に直面したとしましょう。「自分にはこの難題を打開する方法が見いだせない」と感じ、放任主義のマネージャーに相談する。

放任主義のマネージャーの基本態度は、「それくらいのことは、自分で解決できるでしょ」です。細かな状況にも関心を示しません。部下が何に困っているのか?について深堀りすることもまれです。発想がマクロですから。だから相談への指導もマクロ、つまり解り切っている本筋論が出てくるだけです。「なるほどね。じゃあその課題を解決してよ。方法論は色々あるでしょ?君に任せるよ。そこを突破したら成果が出るね」と。

そんなフィードバックは指導とは言えません。マイクロなマネージャーとは別の意味で、マクロなマネージャーも部下の方を支援・指導しているとは言い難い。あくまで極例としてお示ししましたが、案外よくある話ではないでしょうか。

マイクロもマクロもだめなら、どうする?

マイクロもだめ、マクロもだめ。じゃあどんなマネジメントがいいのでしょうか。

マイクロもマクロも『範囲の概念』です。ズームインかズームアウトか、の違いです。ズームインもズームアウトも必要なのですが、それが極端に固着してしまうと機能しないのです。状況に合わせてズームインしたり、ズームアウトしたりしなければならないのがマネジメントですね。

状況に合わせたズームインとズームアウト。このように『範囲』を動かすことが大切なのです。

では、いくつかの実際のマネジメント場面を想定しながら、マイクロとマクロをどう扱えばいいのか、ズームイン、ズームアウトをどう行えばいいのかを考えていきましょう。

目標設定と施策検討場面でのマイクロとマクロ

マネジメント・サイクルは目標設定から始まりますので、まずは目標設定場面でありがちな状況を示しつつ、マイクロとマクロという『範囲』を動かすこと、つまりズームインとズームアウトの必要性を考えてみましょう。

目標は、当該年度中に次期の分を検討する、というかたちで設定されますのが通例かと思います。そのとき、目標設定の土台となる新たな戦略や方針が打ち出されている。その新しさ加減は別として、とにかく新しい、つまりどこかに未知なる部分が含まれている。だからどこかが実験的になります。検証すべき仮説がある、ということです。

その仮説はどこから生じるのか。頭脳集団が論理的に導くのか。現場が顧客の声を反映させるのか。それらを統合するのか。前者はマクロ的で、後者はマイクロ的です。このような場面でのズームインとズームアウトは、どのように展開されるのでしょう。

頭脳集団はズームアウト発想から3C分析などを駆使して洞察を提供するでしょう。現場はズームイン発想から顧客の生のニーズらしきものを提示するでしょう。それらを持ち寄り、マクロとマイクロを上手に合わせなければならない。

既に『範囲』がズレています。マネジャーがマクロな人か、マイクロな人かに関係なく、テーマ、この場では目標設定そのものが両方を包含しているのです。どこかがズレた状態で。

主要施策の落とし込み場面でのマイクロとマクロ

この次の動きとしては、目標設定場面での検討結果をご自身のチームや関連部署に伝えて、戦略や主要施策をより具体的な方策、あるいはToDoに落とし込んでいくことになるでしょう。

こういう落とし込み場面で『範囲』のズレがより顕著になります。「何となく方向性はわかりますが、そこからどうやって施策展開するんですか?」、「◯◯になると想定しているようですが、それが△△になったらどうするんですか?」、「✗✗を前提にしていますが、私の部署には当てはまりません」、「□□の根拠って何でしたっけ?」、というように。

具体的に検討しようとすればするほど、『範囲』のズレが見える。そういうズレに気づきながら手が打てないのは良くないことですが、残念ながら起こりがちです。十分な検討時間がない。主要メンバー間でじっくり議論したいけど、andが取れずに集まれない。仕方ないから資料とメールで補おうとするが意図が伝わらない。そうなると『範囲』のズレ、この場合は企業目標と各部門施策のズレですが、それが埋め切れないことになります。

そんな状態で設定される具体的な施策体系は、効果的とはいえません。そもそも施策の体系化自体がなされないことも十分にあり得ます。

実行場面でのマイクロとマクロ

目標を定めたり、効く戦略/戦術を考えたりするときに生じた『範囲』のズレは、実行場面で埋めるしかありません。実行場面は企業活動の本番ですから。まさか「上司からの指示が今ひとつ的確じゃぁないんですけど、とりあえずこの案、ご検討いただけますか?」とお客さんに言うわけにはいきません。だから実行を担う方々が、ナンやカンや工夫する。

そこに前述のマイクロあるいはマクロ(つまり放任)マネジャーが登場してくる(放任は正確にはマネジメントしているとは云えませんが)。実にややこしいですね。『範囲』のズレがダブルで降り掛かってくるわけです。やるべきことのズレとやり方のズレ、いわばこういうダブルのズレです。

こういう状況のなか、箸の上げ下げが気になるマイクロなマネジャーとその部下の方々にとって、マネジメントの実行場面における『1on1』などは相当ツラいものになるでしょう。喩えるなら、魚のいない池(見当違いの施策)で餌の付け方やリールの巻き方の悪さ(実行面の課題)が指摘され続けるようなものです。一旦ズームアウトして、その池には魚はいなさそうだ、と理解して、別の池を探そうとなればいいのですが、そうはならない。マネジャーの目のつけどころがマイクロなので。

放任マネジャーの場合も別の意味でツラいことになります。「まぁやっていればそのうち結果はついてくるよ」と、言葉は頼もしいですが、部下は「こんなことやっていても一生成果なんかでないよ」と思う。魚なんかいないことを身をもって体験していますからね。でもマネジャーからの指導はない。マクロな人なら大局的視点を持ってもよさそうですが、そういう意味でのマクロじゃないんですね。遠くをぼんやり見るようなマクロなので。だから部下は苦しみながら右往左往する。マネジャーが一旦ズームインして、池に魚がいる気配がないことをわかってくれれば別の策の打ちようもあるのに、そうはならない。マネジャーの目のつけどころがマクロなので。

安直だけど、やはりいい塩梅が重要

PDCAとは目標達成のための計画から改善アクションまでを回すことです。言うまでもなく、その場面、場面で適切な範囲を捉え、大きな狙いから小さなアクションまでを紐づけ、任せつつもうまくいかない場合は改善策を検討する。現状把握においてもズームインとズームアウトを場合に応じて使いわける。

これだけのことです。適時適所で適当なズームアウトとズームインでマネージする。

これですね、これ。

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