事例紹介 / CASE STUDY

AIM コラム COLUMN

地方専門学校の実態と未来

株式会社アバージェンス

マネージャー

北村 貴志

地方専門学校の現在(いま)

皆さんは、”専門学校“にどんな印象を持っていますか。

学校教育法第126条では「専門課程を置く専修学校は、専門学校と称することができる」とされており、これを一般的には専門学校と呼びます。文部科学省の記載によれば、「実践的なカリキュラムを通して、職業に必要な能力を修得する高等教育機関。また、仕事に必要な知識、技術、資格等の修得を目指す、職業教育機関[i]」となっています。実際に、専門学校への進学者の選択理由も、1位が「専門性を身につける事が出来る」こと、2位が「就職に有利だと思った」ことが選ばれています[ii]

専門学校は、高等学校を卒業した後に進む教育機関の1つです。大学全入時代などと言われて久しく、実際に高等学校卒業後の進路は、1985年には卒業者の2割程度だった大学進学者(現役合格者)は2020年には5割を超えました。一方、専門学校への進学者は過去35年間、20%ラインを挟んで微増しています。高等学校卒業者の約2割が長きにわたりその進路として専門学校を選んできているのです。

学校の数をみてみると、大学は直近で約800校とされています。単純比較はできませんが、専門学校は2,800校近くあります。

専門学校の分野は、文部科学省の分類によれば工業、農業、医療、衛生、教育・社会福祉・商業実務、服飾・家政、文化・教養の8つがあり、それぞれの分野における専門的な知識や技術の習得、そして国家資格を含む多様な資格が取得可能です。

これらの分野は社会生活の質的向上を支えるインフラストラクチャと呼べます。実際、一般に技能オリンピックと呼ばれる世界規模の競技種目45種目と専門学校で学ぶことができる分野とをクロスリファレンスしてみると、少々粗い計算にはなりますが約8割が合致します。

社会生活の質的向上を支えるインフラストラクチャにまつわる技術や知識を学ぶことができる専門学校ですが、その魅力が充分に伝わっているかと言えば、疑問が残ります。世間にネガティブなステレオタイプがあることも否定しません。

一方で専門学校を運営する学校法人側もその魅力をきちんと訴求できているのか、と言えば必ずしもそうではないと思っています。

専門学校の魅力訴求の不足は、社会インフラを支える次世代層を薄くするだけでなく、学校法人という教育インフラの存続にも悪影響があるでしょう。特に、都会に比べて人口減少率がより高い傾向にある地方の専門学校は、厳しい生存競争にさらされています。地方の専門学校にもしものことがあれば、その地域にとって痛手です。

私はここしばらく、地方の学校法人クライアントを担当しています。本日は、前述のような論点から、ポジティブ・スパイラル実現へのヒントを探ってみたいと思います。

生存戦略の為の三つの目線

地方の専門学校は厳しい生存競争にさらされている、と言いました。その競争を勝ち抜くためには、3つの“目線”が不可欠だと思っています。3つとは「地域目線」、「ユーザー(高校生)目線」そして「経営目線」です。

生存戦略の鍵1:地域の目線

地元密着型の専門学校は、学生の大半を地元高校出身者が占めます。それだけではなく、多くの学生は専門学校を卒業後、地元で就職する場合が多いです[iii]。そうであれば教育カリキュラムのなかで、地元企業や施設・団体が求めている特定の知見や技術を教授学習できるようにしていくことが、重みを持ちます。

例えば看護分野では、地域によって病院やクリニックの抱える課題は異なります。都市圏に比べて、高齢者比率の高い地方では、病院に通い難い高齢患者へのケアとして在宅看護がより浸透している場合があります[iv]。看護師は訪問看護をベースとして、院外薬局の薬剤師やケアマネジャーと積極的に連携して看護に当たるなど、通常の院内看護に留まらない幅広い職業理解が必要となるわけです[v]

地方でも中核都市には大規模病院があります。そのような病院勤務を希望する学生は、各科の高い専門性や分野スペシャリストを中期キャリアに置いた教育が必要になります。

それとは別に、郊外エリアの中規模病院やクリニック勤務では複数領域の職務をこなせるジェネラリストが求められます。

このように、一言で“看護師”と言っても、その働き方や求められる知見やスキルは異なるのです。こうしたきめ細かいカリキュラム構成ができるのは、特定地域で学び、特定地域で働くことを希望する学生を有する専門学校だからこそ、だと私は思います。

学生のキャリアプランまで見据えた教育ができる。しかもそれが地域の特性に合致していて地域貢献のプラスになる。地域の目線を持つことの意義はここにあると思います。

そのためには、学校法人側が、入口(学生勧誘)のみならず、出口(就職候補となる企業や施設・団体)もより深く理解することが必須です。

それは入口で頑張る、出口で頑張る、ということとは違います。もう一歩踏み出し、その結節にこだわり、双方のWin/Win比率を高めるということが必要です。地域の目線はここまでを射程しなければなりません。

地域の高等学校に出向き学校法人アピールをするのは入口で頑張っているだけです。資格合格率や就職実績を上げる努力は出口で頑張っているだけです。それはそれで貴重なことですが、それだけでは駄目なのだと、私は思います。

生存戦略の鍵2:高校生(高校)の目線

学校法人にとって意外に難しいのが、高校生の目線を獲得することではないでしょうか。高校の先生方のご要望を知ることも含まれますが、何より一人一人多様多彩な高校生の目線が、どこからどこへ向いているのかを知るのはとても難しいです。

相手は青春真っ只中の生徒さんたちですから、学校法人側が「高校生の目線を獲得するぞ!」と意気込めば意気込むほど空回りしてしまいそうです。「ここまではわかる。でもここから先はわからない」とどこかで線引きしないといけないのでしょう。その「ここまでならわかる」という位置をどれだけ先に進められるかが、カギだろうと思います。

「いつ頃から進路選択をし始めるのか?」、「どんな情報を材料にそれを考えるのか?」まずは、この辺りから始める必要があるでしょう。高校生の目線理解の材料として、少なくともWhenとFrom Whatはわかります。それらリーチ可能な情報を探し当てていく。あとはどこまで深掘りできるかの勝負です。こちらの想定と彼らの実態は乖離しているのがデフォルト、くらいの気持ちで始めるのが良いと思います。

そのワークは連続的な試行錯誤です。ある媒体で訴求したが反応が悪い、あるイベントを行ったが来訪者が少ない、ご機嫌取りの施策が総スカン…。マーケティング用語を使うなら、何がゲイン・ペインポイントなのか、どのチャネルにどんなPush/Pullをかけるのがちょうどいいのか、等々、工夫のしどころが満載です。

難しい、難しい、とばかり言っていてもヒントにはならないので、私の考えを一つ紹介させていただきます。

程度の差こそあれ、高校生は中長期的なキャリアプランを考えています。そんな態度は噯(おくび)にも出さない生徒が多いかもしれませんが、大抵は考えています。考えるための材料が足りているか、考える指針を持っているか、の違いこそあれ、きちんと考えています。

専門学校は、学び手に必要な構えを提供し、社会に旅立つ準備を提供する場です。「そういうことができれば、自分たちは各分野のプロになれる!」と胸を張り、「もっと知りたい!」と生徒が学校に近づいてくるようなPull戦略を考えるのが良いと思います。それはオープンキャンパスやウェブサイトなど、生徒との接点全てに貫くべき方針でしょう。

このような態度は、高校生のみならず、高校の先生に対しても適用すべきだと思います。大学進学率を指標にしている高等学校の先生方のなかには、専門学校の価値を見いだせない方も少なからずいるでしょう。そういう方にPushはあまり効きません。ワンポイントでも良いので「なるほど、貴校への進学という選択肢もあり得ますね」と認めてもらえる何かを探し、そこを一点突破するのが良いのではないかと思います。

生存戦略の鍵3:経営の目線

教育という“公共性”とそれを営む団体の“経営”は、字義的に相容れません。一般的に、学校法人は株式会社とは異なり、利潤の最大化を目的としない組織とされています。その為か、学校運営に携わる方々が「儲ける」という表現を忌避する組織文化が醸成されやすい面があるかと思います。また、心無い学校法人が儲けに走り生徒やその家族を蝕む、という不幸な出来事も時々に喧伝されるので、尚の事でしょう。

しかし、何をするのにもお金は必要です。それは学校法人とて同じことです。教育が公共の便益に資するとしても、教育資源を公だけに頼るのは学びの多様性を削ぐことになります。私学があるのはそのためでしょう。私学にも公共性があり、だから寄付や寄贈が集まります。公に供することに対して税以外の支出をする志高き方々がいるからです。

私学運営は寄付や寄贈だけで成り立ってはいません。運営の財源は学生の入学金や授業料などで賄っています。一定数の学生が確保できなければ、運営そのものが傾きます。非営利の学校法人と言えども、学生をどのように集めるかというマーケティングの視点や、次年度どの活動にどの程度の予算を割くかという収支の視点、更に組織としてそれらの予算を達成しようとするマネジメントの視点は、健全な学校経営に不可欠です。学校法人内部の職員、特にリーダー層は一般的な株式会社と同様にマネジャーとしての視点が必要になってくるのです。

さて、現実はどうでしょう。学校組織の運営を見ていくと、マネジメント視点を欠いている場面に出くわす事が実に多いです。具体は提示しませんが、「一般企業ではあり得ない」と嘆息する場面がたくさんあります。

私は、教育という営みに関わるからこそ得られる職業上の愉悦があることに気づいています。だからこそ、教育という営みは事業であるという現実を直視し、中長期的な教育ビジョンを実現するために、企業経営の極意を自ら身につけることが、専門学校という教育法人に在する方々にとって重要だと思います。

三つの目線と地方専門学校の未来(これから)

商売の世界では、「三方よし」で自らの商いの良さが語られることがあります。それは、教育という“公共性”の中でも、重要な考え方なのではないでしょうか。高校生が入りたいと思い、地元企業や団体がその学生に来てもらいたいと思い、その橋渡しに向けて専門学校が人を育む。そんな、「地域よし」、「高校生よし」、「学校よし」という、教育版の「三方よし」こそが、これからの学校には重要な鍵になると信じています。


[i] 専修学校#知る専(文部科学省)https://shirusen.mext.go.jp/senmon/

[ii] 未来に繋がる専門学校(文部科学省)https://www.mext.go.jp/content/20203010-mxt_syogai01-100003286-117.pdf

[iii] 専門学校・大学卒業者における地元就職の状況(文部科学省)https://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/event/senshu/2021/__icsFiles/afieldfile/2022/01/20/monka.pdf

[iv] 訪問看護レポート(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000661085.pdf

[v] 訪問看護という働き方 -看護師のキャリアを考える(LALA NURSE)https://lalanurse.net/articles/about-home-visit-nurse

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