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マネジメント・レポート MANAGEMENT REPORT

”真”の顧客思考

アバージェンスマネジメント研究所

所長 広川周一

顧客思考について考える

私が経営コンサルタントになって相当な年月が経つが、ルーキーの頃から”顧客思考”やそれに類する言葉はすでにあった。「顧客の立場になって考える」、「顧客が本当に求めていることは顧客も気づいていない」、「顧客の課題解決ソリューションを提供することが大切だ」、等々、言い方は様々だが、総じて言えば全て顧客思考である。

我々アバージェンスのコンサルティングは、まさに顧客思考の体現と言える。経営コンサルティングとはそもそも顧客のためにあるものなので、当たり前といえば当たり前なのだが、経営コンサルティングの範疇のなかでも、「常にクライアント(つまり顧客)のためにある」、「クライアントの為を成す」という深みの追求では、誰にも負けない気概をもって仕事にあたっている。

クライアントが今、解決すべき課題は何か。その課題解決に向けた真因探求はどのように展開すべきか。真因のうち、どれに注力すればもっとも効果的に課題を解決できるか。それら課題解決の対策は、クライアント内部で実現可能か。それを絵に描いた餅で終わらせないために、何を誰にどのように働きかければよいか。一旦、課題解決による効果を得たとして、新たな課題に対してもそれを解決し切るだけの力がクライアントに備わっているか。アバージェンスのコンサルタントは全員が毎日、これらの問いを自らに投げかけ、チームメンバーに投げかけ、そしてここが肝心なのだが、当のクライアントにも真正面から向き合っていただくよう働きかけて、クライアントにとっての最大パフォーマンスを発揮しようと全力投球している。

だから原則的にアバージェンスのコンサルタントはクライアントを掛け持ちしない。ある一定期間、担当クライアント”だけ”に集中するためだ。クライアントに常駐し、朝から晩までクライアントと対話し、協議し、検討し、時には論戦を交えながら、クライアントの「人と組織の可能性を引き出し持続的な成長を支える」という顧客思考で仕事にあたっている。

顧客思考についてもっと考える

こうして愚直なまでにクライアントに向き合っていると、その基底となるものを”顧客思考”と呼ぶだけでは足りない気がしてくる。確かにクライアントのことを誰よりも考え抜いている、少なくとも自分なりにそう断言できるだけのことはしているのだが、それだけにというか、そうだからこそというか、他の”思考”も頭や身体を駆け巡っているように思えてくる。

顧客思考と絡み合う他の思考とは何だろうか。この問いを突き詰めることで、言わば”真の顧客思考”が見えてくるような気がする。

と思いつつも、私自身はクライアント・エージェント関係や思考法の研究者ではないし、在野でリアルな成果を求め続けるのが生業なので、この何とはなしの問いは、しばらく頭の片隅に置かれたままになっていた。

少々脇道に逸れる

探し物は忘れかけた頃に突然、出てくるものだと言われる。前述のぼんやりとした問いの答えも突然、現れた。しかもあるクライアントの方々と全く異なるテーマで対話していたとき、語られた何気ない言葉として。

私はある大企業の幹部陣から相談を受けていた。相談内容は、数百人にもなる若手社員、しかも入社数年の20代の方々が会社に対するエンゲージメントを高めるためにはどうすべきか、だった。

ある種の研修のようなかたちで実施するのが良さそうだ、といいうことになり、どんなテーマを扱うべきかを我々は検討していた。数ヶ月の対話を通じて、適切そうなキーワードや対象者を引き込むための工夫などについて、互いに知恵を出し合った。方向性は固まり、コンテンツもだいぶ出揃ってきた手応えを感じつつ、どこかしらインパクトが不足していることも感じていた。

議論を重ねた協議の末、不足するインパクトとは、”顧客”、”改善”、”目的”ではないだろうか?というところまでたどり着いた。それを提言してくれたのはクライアント検討チームの幹部の方だった。どこかしら不足するインパクトを付け加えるための着想のヒントを得た私は、この3つの言葉を思考法化し、それを研修コンテンツに練り上げ、他の研修コンテンツに混ぜ込んだ。

それを当該幹部に共有したところ、「よし、これで行こう!」とのゴーサインを得た。エンゲージメントを高めるというチャレンジングな目標を有したその若手向け研修企画は、こうして完成した。それは、AIMウェブサイトの”研修メニュー”の欄に「爆伸び自己研鑽プログラム」として概要説明されている。この「爆伸び自己研鑽プログラム」は、受講者300名を超す若手向け研修として今でも人気を博している。

そしてこの体験が、私の頭にくすぶっていた顧客思考のぼんやりさを払拭してくれたのであった。若手向け研修を納得いくまで企画し続けていた矢先に出くわした”顧客+改善+目的”という概念、この三位一体が、「これぞ顧客思考!」と思い当たる大きなヒントになった。

本筋に戻る

”顧客思考”を論じてきた本筋に戻ろう。「”顧客思考”と呼ぶだけでは足りない」という不足感に補うのは、”改善”と”目的”であることに気づいたのだ。つまり顧客思考は、改善思考と目的思考とが合わさることで、私が勝手に”真の顧客思考”と呼ぶものへと昇華する、と考えるに至ったのであった。

解説していこう。まず、目的思考、改善思考、顧客思考をXYZ軸に置いてみる。

顧客からの要望があるとき、顧客は改善思考にある(下図中①)。つまり何らかの改善を求めているということだ。この顧客が求める改善を、顧客思考を用い、顧客の立場になって捉え直してみる(下図中②)。なぜその改善が必要なのか、どんな成果を求めているのか、解決すべき課題とは何か、などなどをこの象限で検討してみるわけだ。

初期段階では要望されたこと以上の情報を持っていないので、なぜその改善を求めるのか?も限定的な答えしかでない。というより、むしろ問いばかりが増える。「顧客は一体全体、何を求めているのか?」とその目的を知りたくなる(下図中③)。

そこでその目的を深堀りする。目的思考だ。目的思考とはわかりづらく、如何ようにも捉えることが可能なので、ここでは「目的は?その目的は?」と探求する思考としておこう。これを顧客思考の世界から出ることなく続けてみる。すると「だとすると、こうしてはどうか?」という答えらしきものが見え始める(下図中④)。さらに突き詰めればもっと良いアイディアが出てくる(下図中⑤)。

最初に要望されたときよりも、顧客が求めるものがよりクリアになっているのだから、要望への回答もより芯を食ったものになるだろう。別の言い方をすれば、改善幅が大きくなるということになる(下図中⑥)。

顧客にしてみれば、初期要望よりも目的に合致し改善幅が大きい提案はありがたいだろう。このように要望に対してプラスアルファの提案をしてくれるあなたへの信頼も増すだろう。「あなたは私の立場にたち、私のことを本当に良く考え、グッドではなくベターな提案をしてくれる」などのお褒めの言葉をいただけるだろう。

これを繰り返していけば、あなたと顧客の関係性は盤石なものになるだろう。あなたは顧客にとって欠かせないパートナーとなるわけである。

以上、これが私が考える”真の顧客思考”である。

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