アバージェンスマネジメント研究所
主席研究員 広川周一
組織変革の成功要因とは
私は職業人人生のほとんど全てを【組織変革を支援するハンズオン・コンサルティング】に費やしてきました。クライアント企業に変革をもたらすためには、自分もチェンジしなければいけません。まさに日々鍛錬。このようなチェンジの二重構造のなかで仕事に打ち込めたのは幸いでした。数えきれないほどの組織変革支援に携わることで、組織の如何を問わずに存在する成功要因のようなものを発見することができました。以下が、それを図示したものです。
チャートにある8つの要素を上手にやれば、組織変革は成功するはずです。私の経験則からもそう言えますし、私の書棚を埋め尽くす組織変革の関連書籍もそれを裏付けています。
組織変革のエッセンスを知る
ではその概要について説明していきましょう。
このチャートは上から三段組みなっていて、それぞれ【躍動力:フォース】、【突破力:フォーリン】、【推進力:フォーム】と名付けられています。
フォース、フォーリン、フォームは3つのFにすれば覚えやすいと思って名付けたものです。フォースはエネルギーを、フォーリンは外部性を、フォームは仕組みを含意しています。
チャートに戻りましょう。上からの三段組みは、変革に関わるプレイヤーとその主たる役割を指す、と理解して下さい。
変革に関わるプレイヤーとは経営陣、変革推進者、そして変革当事者です。経営陣は変革の躍動力を生み出し、変革推進者は突破に力点を置き、変革当事者はドライビングフォースになることが重要だ、ということです。
チャートにある8つのマスは、それぞれのプレイヤーが果たす役割をバラしたものです。 例えば、経営陣が躍動力を生み出すには、【堅牢なオーナーシップ】、【前向きなリーダーシップ】、【一点突破の目標】が欠かせない。そういう意味です。
8つのエッセンス
ではチャートに示された8つのエッセンスを説明していきます。
経営陣の躍動力に関わる3つのエッセンス
ここで紹介する3つは、変革を主導する経営陣に期待したいことです。些か僭越ではありますが、組織変革に携わる経営陣は以下のことを【最低限の役割】と認識していただきたいです。
1.堅牢なオーナーシップ
堅牢なオーナーシップは、大きな成果を実現するために必要な揺るぎないこだわりを指します。組織変革の背骨にあたるもので、これ無しではその変革は骨抜きになってしまうでしょう。
経営トップが変革に関与し、成果を重視する姿勢を示し続けることで、組織内に継続性を確保する。これが堅牢さの意味です。そのために成果目標の設定や実行責任者の任命、期待の表明、進捗の定期的な確認など、経営トップが積極的に関与することが重要となります。
2.前向きなリーダーシップ
前向きなリーダーシップは、常識を超えた挑戦を苦痛とせず、明るく前向きな活動エネルギーをもつことを意味します。
難しい課題に取り組む際には、【悲壮感】や【嫌気】【恐れ】に囚われず、「成功の反義語は失敗ではなく諦めである」ことを組織全体に浸透させる必要があります。
具体的な施策のチェックや率先垂範の姿勢はもちろんのこと、時々に訪れる障害に対して常に前向きな態度で臨む、それをリーダーが行い、メンバーに伝播し、チャレンジをポジティブなムーブメントにしていく。そのためのエネルギーともいえるでしょう。
3.一点突破の目標
一点突破の目標は、関係者が一体となって取り組むべき大目標の設定を指します。組織が大きくなればなるほど目標体系は複雑になります。誰が何を目指せばいいのかがわからない状態では、変革の取り組みが形だけのものになりかねません。
変革当事者全員が同じゴールに向かうからこそ、幾多の障害を乗り越えるために奮起できます。定量的な目標とともに、競争力を高めるための定性的な目標や「これができたらすごい!」という状態目標を設定し、それを大きな【矢印】にしましょう。
変革推進者の突破力に関わる2つのエッセンス
これは、組織のなかでPMO的な役割を担う【組織内変革推進者】の方々にぜひ実現していただきたいことです。その任にあたる方々のご苦労は想像を絶します。「なぜ自分がここまでやらなければいけないのか」と自問する日々が続くでしょう。ちょっと油断すると【リーマン・ブラザーズ(互いの傷を舐め合う集団)】に取り込まれてしまいます。そうなったら組織変革は失敗します。それほどの任であり、達成の暁にはそれほどの成果を手にできる。頑張って欲しいです。
4.内部盲点の直視
内部盲点の直視は、当事者の思い込みや見落としを排除し、現実を直視することを意味します。「内に劣るものは外に劣る」と言われますが、自分の弱点には気づきにくいものです。
その見えづらい事実や問題を明確にし、「ここに内省すべき課題がある」と当事者の意識変容を促すことは、どんな改革にも必須です。それが改善の効果、あるいは課題放置の被害を具体化します。尋ねづらいがクリティカルな問いかけやファクトの定量化、問題解決へのポジティブなアプローチを通じて、当事者の認識や行動の変化を促すのが変革推進者の重要な役割です。
5.当事者を揺さぶる異分子
当事者を揺さぶる異分子とは、発想と行動のボトルネックを解消するための外部からのフィードバックを意味します。たとえ組織内の人でも、若手や新たに組織に加わった方などが比較的にこのような外部目線を持ちやすいです。事情がよくわかっている方でもできるだけ外部目線でいることが変革推進者に求められる役割です。
成功した変革に携わったことがある方なら、このような外部目線の重要性がわかるでしょう。【その道の素人】のような方と行動を共にすれば「なぜこうしないのですか?」という貴重な洞察が得られるはずです。アイディア出しや課題検討のファシリテーション、停滞や後退を検知して前進させるドライブ、勇気ある意見出し、一緒に悩み考える伴走…。変革推進者はそういうことが【常にできる存在】でいたいものです。
また【試行錯誤】を繰り返すのも、ある意味で当事者を揺さぶる異分子的な意味を持ちます。「こんな結果になるとは想像していなかった」という気付きが、常に考え続ける態度を形成します。
変革当事者の推進力に関する3つのエッセンス
組織変革活動には、必ず当事者がいます。机上の空論になりがちな戦略や市場で試したことのない施策を現場で実践し、検証し、良しは倍化し、悪しは改善施策をクイックに講じる任にあたる。要するに組織変革の成果が出るか出ないかにハラハラし、リアルに挑戦し、リアルに打ちひしがれ、リアルに再考し、リアルに再チャレンジする方々。これが変革当事者です。痺れる場面が続くでしょう。でもやり切ったときの感慨深さは格別です。その経験は、職業人としてのあなたにとって貴重な糧になるでしょう。
6.変革を浸透させる型・枠・場
変革を浸透させる型・枠・場は、新しい仕事のやり方を当たり前にするための仕掛けです。簡単にいえば会議体や1on1などですが、その型や枠組みを変革推進に相応しく整えることで、変革活動の進捗を把握しやすくなり、課題解決が定期的に行えるようになります。
特に変革の取り組みを日常業務に取り込むための仕掛け、つまり対話の場はとても重要です。現場には慣れ親しんだやり方が浸透しているのでそれを変えるためにはパワーが必要になるからです。良い取り組みの伝播を通じて、変革を特別なことではなく当たり前のことにすることが重要です。
7.課題解決フレームワークと施策の緻密体系
課題解決フレームワークと施策の緻密体系化は、目標に関わる全ての関係者が参加し、緻密で新たな施策の集合体を模索することを意味します。
変革目標をばらしてより小さな組織単位へと浸透させていくことも簡単ではありませんが、それら小さな組織単位で立てている施策が妥当かどうかを見極めるのはもっと難しいです。組織内の伝言ゲームが目標の意図や狙いを薄めたり違うものにしたりしてしまうので、解決策が的外れになりがちだからです。
このようなズレや迷走を避けるためには、課題解決フレームワークをそれぞれ関連させながらより細かなレベルへと落とし込んでいくことや、施策ToDoリストの統一化などが必要になります。
自分が担当する施策だけに囚われず、それと連関する施策の関係性をきちんと把握しておきましょう。特に組織内でジョイント的役割を果たす管理者は、変革テーマの施策のばらしが組織の末端まで浸透しているか、それぞれで具体化しているか、全員の参加と貢献が得られているか、をチェックしなければなりません。
8.高密度で高速度のアクション
高密度で高速度のアクションとは、要するにPDCAを細かく早く回すことです。これこそが着実な進歩を担保するのです。
細かな施策の進捗を早く回し、中間管理職レベルで施策進捗を確認し、変革推進チームとの進捗確認の場で現実に基づいた軌道修正を早く行う。変革を特別なものとせず、通常業務プロセスやマネジメントの仕組みに組み込んでいきましょう。
エッセンスのまとめ
これらのエッセンスを統合することで、組織変革を成功に導く道筋が描かれます。堅牢なオーナーシップによって成果へのこだわりを確保し、前向きなリーダーシップで挑戦の意識を醸成します。一点突破の目標を設定し、内部盲点を直視して現実に向き合います。当事者を揺さぶる異分子や変革を浸透させる型・枠・場を活用し、課題解決フレームワークと施策の緻密体系化を図ります。そして、高密度で高速度のアクションによって着実な進歩を遂げるのです。組織変革の道は困難ですが、これらのエッセンスを活かすことで、成功への道を切り拓くことができます。