組織変革はなぜ「難しい」のか?成功する組織だけが知っている「3つの力学」と「らせん的成長」
「組織変革はなぜ難しいのか?」「なぜ多くの変革プロジェクトは失敗に終わるのか?」その根本原因は、手法の間違いではなく、組織を動かす「力学(ダイナミクス)」の不足にあります。本記事では、変革のフェーズを読み解く「タックマンモデル」を地図とし、停滞を突破する3つのエンジン「Force(推進力)・Foreign(揺動力)・Form(秩序)」について解説します。現場の抵抗を乗り越え、自律的な変化を生み出す「らせん的変容プロセス」とは何か。チェンジマネジメントに悩むリーダーのための実践的フレームワークを公開します。
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目次
導入:変革リーダーのあなたへ
「組織変革は難しい」。多くの企業で、合言葉のように語られる言葉です。現場の抵抗、笛吹けど踊らぬ会議、形骸化するKPI、そして疲弊する推進チーム……。変革プロジェクトを任されたミドルマネジメントや経営層の方なら、この「見えない壁」に一度は直面したことがあるのではないでしょうか。
しかし、ここで視点を少し変えてみましょう。変革がうまくいかないのは、やり方が間違っているからでも、社員の意識が低いからでもありません。
組織変革とは、そもそも「未定義な営み」だからです。
既存の評価制度を入れ替えたり、新しいITツールを導入したりといった「外形的な変更」は変革の入り口に過ぎません。本質は、組織の中に流れる「力(エネルギー)」、人々の「認知」、そして「関係性」を書き換えていくプロセスそのものだからです。
未定義な荒野を進むのですから、揺らぎや迷いが生じるのは「バグ」ではありません。あって当然なものです。とはいえ回り道や停滞は避けたい。では、その荒野をどのように進めばいいのでしょうか?そのための「地図」と「エンジン」について、今回はお話しします。
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第1章:変革の現在地を知る「地図」──タックマンモデルの再解釈
組織が変化していくプロセスには、一定の法則があります。世界的に有名な「タックマンモデル」をご存じの方も多いでしょう。
- Forming(形成期):メンバーが集まり、様子を伺っている段階
- Storming(混乱期):意見が対立し、葛藤が生まれる段階
- Norming(統一期):共通の規範ができ、方向性が定まる段階
- Performing(機能期):チームが結束し、成果が出る段階
この4段階は、組織開発の「地図」として非常に優れています。しかし、地図を持っているだけでは山は登れません。地図は「今どこにいるか」を教えてくれますが、「どうやって前に進むか」は教えてくれないからです。
組織を動かすためには、地図だけでなく「ダイナミクス(力学)」が必要です。何が人の心を動かし、何が行動を変え、何が組織を加速させるのか。
数々の組織変革の現場で、停滞する組織と進む組織の違いを観察し続けた結果、私はある「3つの力」の存在に行き着きました。
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第2章:組織を動かすエンジン──「3つの力学(3F)」とは
変革が停滞する最大の理由は、組織を動かす「3つの力学」が機能していないことにあるケースが多いと思っています。その3つとは、Force(推進力)、Foreign(揺動力)、Form(構造・秩序)です。新しい知恵が出てこないのも、新たな取組みが遅々として進まないのも、根源的には3つのFの不足ではないかと睨んでいます。

これらが揃ったとき、組織は施策の管理を超えて、自律的に変化し始めます。具体的なシーンとともに紐解いていきましょう。
1.Force(推進力):挑戦の火種を消さない
Force(フォース)とは、トップダウンの命令ではなく、組織の内側から湧き上がる「挑戦の連鎖」です。
【ありがちな失敗例】社長が「DXは進んでいるのか?」と尋ねても、現場はうつむくばかり。「DXは手段であり、その目的がはっきりしなければ進めようがない…」と消極的になり、誰も最初の一歩を踏み出さない。
【Forceがある組織の例】ある若手社員が「定例会議、資料作成に時間がかかりすぎるので、画面共有だけにしませんか?」と小さく提案したとします。これがForceの「火種」です。Forceが効いている組織では、上司や周囲が「いいね、来週から試してみよう」と即答し、その行動が「じゃあ私もここを変えてみたい」という波紋のように広がります。変革の起点は、いつもこうした静かで小さな挑戦です。
2.Foreign(揺動力):異質性が「当たり前」を壊す
Foreign(フォーリン)とは、単に外部の人を入れることではありません。「異なる視点(異質性)」を組織内部に取り込み、固定観念を揺さぶる力です。
【ありがちな失敗例】「うちは特殊だから」「この業界では無理だ」という言葉が会議で飛び交い、結局、前年踏襲のプランに落ち着く(自家中毒)。
【Foreignがある組織の例】例えば、開発チームの会議に、あえて営業担当や、入社1年目の社員を参加させてみます。「なぜこの機能が必要なんですか?お客さんはこう使っていますよ」そんな「空気を読まない素朴な疑問」が投げかけられた瞬間、その場が一瞬凍りつくかもしれません。しかし、この「揺らぎ」こそが、ベテラン社員の凝り固まった前提(認知)を壊し、「確かにその視点はなかった」という新しい解決策(創発)を生み出すきっかけになるのです。
3.Form(構造・秩序):熱狂を一過性で終わらせない
Forceで火がつき、Foreignで視界が広がったとしても、それを支える「器」がなければエネルギーは霧散します。それがForm(フォーム)です。
【ありがちな失敗例】ワークショップで盛り上がり「これから変わろう!」と誓い合ったが、翌日にはまた忙殺される日々に逆戻り。3ヶ月後には誰もその話を覚えていない。
【Formがある組織の例】これは分厚いマニュアルを作ることではありません。「毎朝10分だけ、業務連絡ではなく『今困っていること』を話す時間をとる」、「学んだことを即時に共有するチャットを明日から導入する」…。
こうした「組織の共通リズム」を整えることで、変革は一過性のイベントではなく、再現性のある「文化」へと定着していきます。
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第3章:変革は「階段」ではなく「らせん」で進む
多くのプロジェクト管理では、変革を「Step1→Step2→Step3」という直線的な階段として捉えがちです。しかし、現実の変革はもっと動的です。
ある変革プロジェクトのストーリー:
- Force(着火):あるチームが、顧客からのクレームをきっかけに、独断で「即日対応ルール」を試験的に始めました。
- Foreign(波及):その動きを見た隣の部署が「なぜ彼らはあんなに早いんだ?」と驚き、視察に来ました。そこで「部門間の壁」という課題が浮き彫りになります。
- Form(定着):そこで、部門を超えて課題を解決する「合同タスクフォース」という新しい型が作られました。
すると、そのタスクフォースの中から、また次のレベルで「新商品開発」という新しいForce(挑戦)が生まれる…。このように、3つの力が相互に作用しながら、組織のステージを「らせん状」に押し上げていくプロセスこそが、変革のリアルな姿です。
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第4章:実践ガイド──12のエリアで見る「次の打ち手」
では、変革リーダーであるあなたは、具体的に何をすればいいのでしょうか?組織の状態(タックマンモデルの4段階)に合わせて、注ぐべき力の種類は変わります。

例えば、組織が「混乱期(Storming)」にあると感じるなら……
- 🔥Forceの視点:八方美人に振る舞うのではなく、「一点突破の目標」を掲げてください。あれもこれもと手を出すと現場は混乱します。「まずはこれだけを変える」と焦点を絞り、エネルギーを収束させます。
- 🌬️Foreignの視点:対立を恐れず、「異なる視座からの揺動」を続けてください。混乱は、古い殻が壊れかけている証拠です。「なぜ意見が食い違うのか?」を掘り下げる伴走をすることで、対立を「気づき」へ変換します。
- 🏛️Formの視点:カオスな状態だからこそ、「対話の場」を設計してください。ただ言い争うのではなく、論点を整理し、合意形成していくプロセスを丁寧に回すことで、混乱の中から新しい秩序が芽生えます。
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特別付録:組織変革力自己診断テスト
あなたの組織には、今どの「力」が不足しているでしょうか?ごく簡単なものではありますが、以下のチェックリストで、現状のボトルネックを確認してみてください。次の一手のヒントになるでしょう。
A.Force(推進力)チェック
・「前例がない」という理由で提案が却下されることが少ない
・会議室での議論より、現場での「小さな実験」が賞賛されている
・リーダーの指示待ちではなく、現場から自発的な動きが出ている
B.Foreign(揺動力)チェック
・部署を超えた交流や、異なる専門性を持つメンバーとの対話がある
・「業界の常識」や「社内の慣習」を疑う発言が許容されている
・耳の痛い意見や、外部からの指摘を「学び」として歓迎している
C.Form(構造・秩序)チェック
・本音を話しても安全だと感じる「対話の場」が定期的にある
・決定事項のプロセスが透明で、「なぜ決まったか」が共有されている
・挑戦した結果の成功・失敗が共有され、組織の知恵として蓄積されている
組織変革力自己診断における結果のヒント

- Aが少ない組織:「火種」が足りません。まずは小さな挑戦を承認し、守ることから始めましょう。
- Bが少ない組織:「空気」が淀んでいます。あえて異質なゲストを会議に呼ぶなど、風通しを良くしましょう。
- Cが少ない組織:「器」がありません。個人の頑張りに依存せず、定期的な対話や振り返りのリズムを作りましょう。
結び:変革とは、組織に「生きる力」を取り戻すこと
変革とは、綺麗な戦略資料を作ることでも、最新の管理ツールを入れることでもありません。組織の中に眠っている、人間本来の「生きた力(Force/Foreign/Form)」を、もう一度流れさせること。それこそが変革の本質です。
Force(挑戦)、Foreign(異質性)、Form(秩序)。この3つのスイッチを、まずはあなたの手の届く範囲から押してみてください。その小さな波紋が、やがて組織全体を巻き込む大きなうねりになるはずです。
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