事例紹介 / CASE STUDY

AIM コラム COLUMN

管理部門の新たな挑戦 ―変革の時代に対応する方法―

                              アバージェンスマネジメント研究所
                                シニアマネジャー 原田 康史

           

近年、ビジネス環境はめまぐるしく変化しており従来のマネジメント手法だけでは、多様化する課題に対応しきれなくなってきています。最適で効果的なマネジメントを求められる管理部門は、時代の波に翻弄されることなく、上手に乗り切っていかなければなりません。特にAI(人工知能)の活用は避けて通れない重要なテーマとなっています。そこで今回は、今の時代に沿ったマネジメント手法を取得したいと考える管理部門に向けて、今求められるマネジメントについて解説し、これから取り入れたいAI活用方法について具体的にご紹介いたします。

■昔と今のマネジメントの違い

管理部門に求められることは、昔と今では変わってきています。まずは、変化ポイントについて確認してまいりましょう。

・組織の変化

以前は内部のリソースを用いて、自給自足的な運営を行うことがデフォルトであるという認識がありました。しかし昨今は、外部のパートナーやアウトソーシング・ネットワークを活用することがむしろ当たり前になってきています。会社員であることが先に立ち、その上でどんな職種に就くか、という発想が変化してきているからだと思います。多様化する課題の解決に必要な人材が求められ、そうした人材を社内に見つけられなければ外部に求める。まさに人材の今昔物語です。当然の帰結として、組織成員一人ひとりに対しても、固定的な役割ではなく状況やプロジェクトに応じて柔軟に対応することを求める傾向があります。マネジメントは、指示命令によるトップダウンの管理スタイルが未だに主流であり、マネジメントをする立場の人に対してはオーソリティやリーダーシップが求められていましたが、現在のリーダーシップは、コーチングやフィードバックを通して部下の成長を支援しながら能力を引き出す役割が求められています。これも組織の変化がもたらす人材の今昔物語によるものです。言うまでもなく、デジタル時代に対応するためのデジタル・リーダーシップも重要性を増しています。ITリテラシーの低い幹部を秘書が助けるようなことは、遠い昔のことになりました。

・働き方やルールの変化

昔は終身雇用が一般的で、新卒入社から定年まで一つの会社で働くことが良いとされていました。また、残業は忠誠心の象徴とされ長時間働くことが評価されるケースも多かったです。今は、ファーストキャリアという言葉があるように転職や独立の可能性も視野に入れながら就活をする人が増えたり、リモートワークや短時間勤務などフレキシブルな働き方を求める人が増えています。残業は低生産性の証となり、マネージャーの減点要素として扱われてきています。

さらに、画一的なルールに従業員が従うことが一般的だった昔と比べて、今は多様性を尊重し、全てのメンバーに合った方法で平等に参加できる環境を作ることが重要視されています。管理部門にとって、ダイバーシティ&インクルージョンを土台としたマネジメントの再構築が求められていると言えるでしょう。

■新時代マネジメントにAIが重要な理由

管理部門そのもののマネジメントに求められることも大きく変わっています。なかでもAI導入による業務の効率化や高度化は欠かせません。

・業務効率化による持続可能な運営体制づくり

働き方改革で時間が制限される中、業務効率化は管理部門にとって喫緊の課題です。

AI活用を中心とするDX化により、ルーティン作業やデータ入力などの管理部門における事務作業が短縮できる他、社内クライアントである他部門への支援として、企画書やプレゼン資料作成などのサポートができたり、デザインやライティングなどのクリエイティブ制作ができたりします。

“持続可能性”という言葉が企業発のウェブサイトやレポートのそこここに登場する時代です。人事的観点からの持続可能性とは、特定の人物に知識や業務が依存する属人化を防ぐことであり、公共性という観点からは環境問題やエネルギー問題を解決することが持続可能性を追求する経営です。企業の持続可能性追求の中心にいるべき管理部門は、前述のような業務の効率化と高度化をもって、その役割を再設定していくべきでしょう。

・人材確保と多様な従業員のフィードバックに対応

少子高齢化という社会現象や労働市場における高度人材の獲得難が加速し、今後ますます人材確保が課題となることが予測されます。社内人材はもちろんのこと、社外パートナーが担当する業務において、それらにあたる当事者がその非効率性に辟易とするような企業には人材は集まりません。単純作業を中心とする多くの業務プロセスは自動化し、人が介在しなくてもよい状態をつくることで、腕に覚えのある人々は自らの得意分野に集中することができるでしょう。働き方を多様化するための職場環境づくりや人事制度の改正も必要です。これらの改善にAI導入は必須となるでしょう。

従業員の働き方が多様化すれば、そのサポートもまた多様化しなければなりません。従業員満足度のデータ収集とその分析は、幅広に、高度に、そしてスピーディーに行う必要があります。AIを上手に用いることで、各従業員のパフォーマンスデータや過去の情報を基に、一人ひとりに合ったサポートを見出すことができ、きめ細かく支援することでエンゲージメント向上も期待できます。

■今後ますます予測される変革

ここまでは管理部門におけるAI導入の意義について述べてきました。しかし管理部門が持つべき視野は、管理部門内に留まりません。

アンリ・ファヨール[1]が唱えた管理原則は、その実行方法こそ時代とともに変化しつつも、基底となる「計画し、組織し、指揮し、調整し、統制する」プロセスの重要性は変わりません。それがなければ企業は烏合の衆になってしまいます。この管理原則を時代に適合させながら社内全般に浸透させ、効果を引き出していくのがコーポレート・スタッフの役割です。ここからは、企業の他機能を視野に入れながら考察していきます。

・各機能分野に広がるAIの進化

インダストリー4.0の掛け声とともに加速した製造革新は、IoTなどのデジタル技術やロボティクスの導入によるプロダクションのきめ細かなリアルタイム把握や膨大なデータ解析やその他の製造DX導入により生産性を改善し続けています。その大きな改革のあちこちにAI技術が採用され始めているようです[2]

ビジネス・インフラストラクチャの一つであるロジスティクス分野においても、構造的に抱える諸課題の解決にAIを含むデジタル技術の導入が盛んです。多重多層に絡み合い、エントロピーが増大し続けるこの分野を“フィジカル・インターネット構想”により抜本的に改革する動きが進んでいます。一般社団法人「フィジカルインターネットセンター」によれば、フィジカル・インターネットとは以下のとおりです。

デジタル情報の代わりに「もの」をトラック、貨物列車、船、航空機などの輸送手段によって各地の物流センターを順次リレーして送るビジネスモデルのことを言う。物流センターやその中に設置されたコンベアや仕分け機、収納棚、自動倉庫、無人搬送車、フォークリフトなどの物流システム機器、さらに、ドライバーやピッキング作業や梱包作業、検品作業などを行う人々などを複数の企業が活用することで生産性向上やコストダウン、物流品質向上、顧客満足獲得、地球環境貢献などに資する活動のことをいう。それは、車や農機具、住居、別荘、マンション、会議室、さらには介護や育児、家事代行などさまざまな分野で拡大しているシェアリングエコノミーの考え方である。

壮大な構想ゆえ、その実現には時間を有するでしょうが、“スマート物流”の域を超えた超高効率ロジスティクスは、社会構造そのものを変えるほどのインパクトがありそうです。想像するに、この構想の実現にもAIは欠かせない機能として導入されることでしょう。

ここまで製造や物流といった機能におけるAI導入について述べてきましたが、それ以外にも、マーケティング、商品開発、デザイン、財務や会計、顧客接点管理、保守など挙げればきりがないほどの分野にAIは浸透していると著者は常日頃から感じています。

どの分野にも当てはまることではありますが、管理部門こそ、自部署の業務を超高効率化し、空き時間を企業内外の他機能や他業界におけるAI技術の進展に伴うチャンス、あるいはリスクの半歩先を読むことに充てるべきだと強く思います。

■管理部門のAI導入に対する逆風

管理部門におけるAI導入は避けては通れない流れになるはずです。一方で管理部門にAIを導入する際の難しさも感じます。私見ではありますが「なぜ管理部門でのAI導入は難しいのか」について述べます。こうした難しさがあることを認識した上で、全社課題として取り組んでいって欲しいと願っています。

・ROIの見えにくさ

AI導入には当然コストがかかります。投資ですのでそれを補って余りあるリターンがあればいいのですが、管理部門へのAI導入のリターンは見えにくい場合が多いと感じます。浮いた人材は全社への戦略的サポートに向けるリソースですが、それらのサポートにどれほど効果があるのかを上手に説明できる論理武装が必要になるでしょう。

・業務の複雑性とカスタマイズの難しさ

管理部門の業務は、企業内の様々な部署と繋がっているため、複雑になりがちです。多数の異なる業務を一連の流れに統合するだけでも難しく、それをAI導入を含むシステム化するのはもっと難しいでしょう。管理部門における業務負荷の大きさと業務簡素化の二軸で業務を棚卸しし、負荷が大きく簡素化しやすい業務から手を付けていくのが良いのではないかと思います。

・データの整備不足

AIの効果的活用には大量かつ高品質なデータが必要ですが、データソースが管理部門になかったり、そもそも未整備だったりすることが多いのではないでしょうか。このようなデータの分散は全社的な課題でもあるため、CIOや情報システム部門との連携を密にし、全社的なデータ統合検討の場に管理部門も積極的に関与することで、管理部門の付加価値増を正当に主張していく努力が欠かせないと思います。

■まとめ

管理部門は今、変革の時代において新たな挑戦を求められています。働き方や組織の在り方の変化は速く、現状を追いかけているだけでは一向に追いつけません。

AI導入は、日常的なタスクやプロセスを効率化し、管理部門の生産性を大幅に向上させるための協力なツールです。また、リモートチームの管理やコミュニケーションの最適化ができるため、フレキシブルな働き方の導入にも繋がるでしょう。というより、チーム管理やコミュニケーションを最適化する、新たな働き方を導入する、これらを管理部門が主導できるよう管理部門自体がスマート・リーン・アジャイルでなければなりません。

管理部門のマネジメントにおいて重要なことは、変革に対する柔軟性と継続性です。新しい技術やトレンドを積極的に取り入れ、改善しながら継続することで、変革の時代においても競争力を維持し、持続的な成長を実現してまいりましょう。


[1] Wikipedia「アンリ・ファヨール」

[2] AI導入ガイドブック 製造業へのAI需要予測の導入、https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/

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