事例紹介 / CASE STUDY

AIM コラム COLUMN

チャレンジする若手を
増やすには?

若手が抱く期待と不安

新入社員向けの意識調査(*1)によれば、彼らが仕事をする上で重視することのトップ3は「成長したい」、「貢献したい」、「やりがいを感じたい」、だそうです。若々しくていいですね。ぜひ職場を舞台に大きく伸びていって欲しいです。そして貢献することの喜びをどんどん体感していって欲しいです。

一方で彼らは、『自発』、『試行』、『恊働』といったことに不安や苦手意識を感じている、だから克服したいと思っていることが、同じ意識調査から明らかになりました。

若い世代がこういうことに苦手意識を持つのは、わかる気がします。自発的に何かをしたら「それはルールから逸脱している」とたしなめられる。試行的なチャレンジの成功例を知らない。チームに所属してはいるが恊働感より分業感が強い。「ここしばらくの日本社会ってどうだったかな?」を振り返れば、彼らが大人への階段を登るたびにそんな経験をしてきたとしても不思議でないなぁ、と思います。

成長感、貢献感、やりがいを感じるためには、自発、試行、恊働は必要です。与えられるのを待たずに自分から取りに行って伸びる、失敗するかもしれないけど挑戦することで貢献する、仲間と刺激し合うからこそ夢中になれるし、やりがいに満たされる。

そんな好循環は、新入社員の皆さんの期待だけではなく、社会の要請です。若人にエールを送りたいです。

あれ?ちょっとおとなしくないか?

「あまり言いたくないのですが、今の若者って、ちょっとおとなしいと思いません?」。クライアント企業の管理者や幹部層からよく聞く言葉です。世代間ギャップはいつの世にもあるものですが、私の周りでは「おとなしい」が世代間ギャップの頻出ワードです。

彼らの『おとなしさ』は世代間ギャップなのでしょうか。それとも実態なのでしょうか。若者自身が『自発、試行、恊働』に苦手意識を持っているのなら、単なる世代間ギャップではないように思えてきます。

皆さんの周りではどうですか。最近の若者は『おとなしい』ですか。

なぜ苦手なの?

いずれにせよ、社会人ルーキー諸氏が『自発、試行、恊働』に長けたいと願っているのならば応援したくなりますよね。AIMも応援したいです。応援するため、まずは語られた苦手意識の原因について考えてみます。

「今まで育ってきた環境からは暗示的に否定されてきたことが、一瞬にして『やるべき』に変わることへの戸惑い」。これが、我々が考える原因仮説です。

人間は元々、自発的で、試行的で、恊働的な存在として生まれてくるものですよね。目が見えるようになればキョロキョロするし、動けるようになれば親がヒヤヒヤするほど動き回りますし、学校に行くようになれば先生が何と言おうが、自分のやりたいことに迷わず飛び込むようになります。また、友だちや家族と積極的に交流し、仲間をつくり、色々なことを一緒にやるようになります。勝手にそうなります。

その都度、怒られ、叱られ、逸脱から戻され、自分の意図とは異なる行為を強いられていけば、自発や試行、恊働への生得的な性質がどんどん弱化していきます。今まで自分が育ってきた環境とは、家庭を中心とした親族や、学校や塾などの教育機関や、友人の輪などのコミュニティでしょう。そこで、「アレはだめ」「コレもダメ」とたしなめられ続ければ、「自発はダメなこと」「試行は危ない」と学んでしまいます。また、成績という一次元上にプロットされた点のように扱われてくれば、豊かな恊働ではなく表層的な競争を学んでしまいます。

ルールの激変が苦手意識を生む

それが、社会に出た途端、ゴールとルールが急変し、今まで抑えつけられ続けた『自発、試行、恊働』が突然、要請される。正確に言えば、ルーキー諸氏は企業のゴールとルールに向き合うことで「私たちには『自発、試行、恊働』が求められている」と汲み取っているのだと思います。そして、今まで明示的あるいは暗示的に求められてきた振る舞いとは全く異なる振る舞いを、クイックに獲得しなければならないと感じているのでしょう。そんな難行に苦手意識を持つのは当然ですし、健全なことだと思います。

もしそうなら、元々持っていたはずの『自発、試行、恊働』性を取り戻せばいい、ということになります。ではそのために、どうすればいいのでしょう。

苦手を克服しよう

子供の頃に戻ったかのような状態で、当時は誰もが有していた自発性や試行性、恊働性を取り戻すような学習を何と呼べばいいのでしょうね。リバース(逆回転、逆進)ラーニング?調べてみたら、リバースラーニングは別の意味を持つ教育学の用語として既に使われていました。では「遡る」という意味を持つレトロは?これもダメそうですね。レトロというカタカナが既に『懐古』として広く認知されていますので。

まぁ、何と呼ぶかは本筋ではないので、どうでもいいといえばどうでもいいのですが、呼び名がないとこの先を書きづらいので、一旦、『レトロスペクティブ・ラーニング』と呼ぶことにします。レトロスペクティブも「過去を懐かしむ」という意味を持ちますが、原義は「後方へ(retro)」+「見る(spect)」なので、『懐古』ではなく、『回顧』という意味で、この言葉を用いることにします。

具体的には、どんな学習法になるのでしょうか。私のイメージでは、子供の頃に戻ったような擬似的な環境下で、そのときの自然な自分を客観視し、そのまま維持すべき価値観や行動形態について大人の判断力で考え、どのような振る舞いが適しているのかを想像し、今の自分という精神的、肉体的、社会的な様態に適用してみる。このような学習になると思います。

名付けて「爆伸び」

レトロスペクティブ・ラーニング的な学習法を用いて、入社3年目のルーキー諸氏に「自分の殻を破り」「革新的でファンタスティックな世界」に向かって伸びていってもらおうと仕立てたのが【爆伸び自己研鑽プログラム】です。

きっかけは、お付き合いの長いクライアント企業の幹部の方から「ウチのポテンシャル高い若手を元気づけ、若者らしくイキイキとしてもらいたい」というご要望をいただいたことでした。

その幹部の方々と何度も議論を重ね、最終的に「挑戦」、「鍛錬」、「自主・自律」、「視座」、「自由」という5つの軸となる自己研鑽のキーワードを出していただきました。それを土台として、先程ご紹介したような、レトロスペクティブな教授学習を企画しました。その企画には、言われなくても自発的だった頃を疑似体験ができるような工夫を盛り込み、実施しました。

エンゲージメントが上がった!

幸いなことに受講者の方々は、まさに自由かつ自律的に、自主かつ視座高く臨んで下さいました。「ジブンゴトをつかみたい」、「自分を高めるためなんだから、努力は惜しまない」などなど、皆さんが常に前向きかつ真剣に取り組んでくれました。「何が足りないのかがわかってきた気がする」、「研修が終わったら後戻り、じゃ意味がない。これからが重要。自分で自分を試す」など、非常に好意的かつ挑戦的なコメントを残してプログラムを修了した若手諸氏は、今、仕事で大活躍しています。

最初のうちは数ある研修の一つ、と捉えていた上司各位も、部下である若手の行動や言動が明らかに変わってきたことに驚きを隠せない様子でした。「研修でどんなことを学んだの?」、「それ、今でも続けているの?」、「こっちが勉強させてもらったよ」、など上司からもポジティブなフィードバックがあったようです。年度のエンゲージメント調査結果が明らかな好転をしたことには、組織の幹部陣が驚いたようです。その企業での「爆伸び」研修はすっかり定着し、アルムナイもどんどん増えています。

ギャップはある、でも共有できている

研修期間中、受講者の方々と深くお付き合いさせていただきました。受講者の若手諸氏と講師とは年齢的に何世代も異なり、色々な面でギャップがありました。しかし、受講生諸氏はまさに若者らしく振る舞い、「挑戦」、「鍛錬」、「自主・自律」、「視座」、「自由」をどう取り込み、どうジブンゴト化し、どう日常に取り入れるか、についての工夫を重ねてくれました。

我々も受講者の方々と同じくらい挑戦的になり、受講者の方々と同じくらい「“爆伸び”で日本を変える」ことをジブンゴト化していきたいです。


*1.新入社員意識調査2022 リクルートマネジメントソリューションズ,
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000377/
*2.事業統括役員に求められるアンラーニング(2014)松尾睦, Discussion Paper, Series B, No.2014-127, http://hdl.handle.net/2115/56792

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