事例紹介 / CASE STUDY

AIM コラム COLUMN

自分事化で成果を出す組織の課題設定力とは?

株式会社アバージェンス

シニア・マネジャー

増田 大祐

はじめに:こんなお悩みありませんか?

コンサルタントとして従事する中で、私たちは多くの経営者や経営層のお客様から、様々な課題を伺います。「社内で課題改善タスクフォースを立ち上げるがうまくいかない」、「活動成果がなかなか上がらない。またすぐに空中分解してしまう、」「実際のところ、メンバーがどう感じているのか全く分からない」。こうした声もよく耳にします。

このコラムを読まれている経営者や経営層の皆様のなかにも同様の組織課題を感じている方々がいらっしゃるのではないでしょうか。経営者は常に改革に挑戦し続けておられますし、前述のような課題はご自身で日々吹き飛ばしていらっしゃるのでしょうが、そのご尽力に関する、私なりの一つの解決策を実体験からご紹介したいと思い、筆を取りました。業務改善や生産性向上を目指す上で、このコラムが皆様の企業成長の一助となれば幸いです。

なぜ課題は「自分事」でなければならないのか?

そもそも課題とは誰のものでしょうか?それは言うまでもなく企業の課題です。しかし、【課題改善活動】を進めていく過程で、その意味合いが変わっていかなければなりません。なぜならば、【課題改善活動】を成功させるためには、課題が改善実行者自身の課題でなければならないからです。”自分事化”が必要。よく言われることです。

ただ実際に課題改善活動が進んでいない現場の方々にインタビューすると、「これが課題だと“言われています”」、「~を改善することが現場には“落ちてきています”」といった、いわゆる受け身の発言が目立ちます。これは、指示命令によるトップダウン型のマネジメントに関する良し悪しの悪しき面と言えます。トップダウン型マネジメントには、その効用も多くあります。同時に弊害もあります。全てのコインに表があれば裏もある。企業課題解決のコンサルタントとしての実感です。

変革はトップダウンでないとなかなか始められません。しかし変革課題が現場で自分事化されていなければ、活動は一向に進みません。結果として、課題の放棄・放置、実行力の欠如につながってしまうのです。トップダウンとボトムアップをどう両立すればいいのでしょうか。

成果を出す組織が実践する「サーバント・リーダーシップ」とは

私は、「その答えはサーバント・リーダーシップによるマネジメントにある」、と考えています。

サーバント・リーダーシップとは、リーダー(経営層)が部下(現場)と協働し、意見を傾聴した上で組織のあるべき姿を示し、伴走することで部下を導き、目標・あるべき姿へと導くマネジメント手法です。

これは、ロバート・K・グリーンリーフ氏によって1970年に提唱されたマネジメント・リーダーシップ手法です。初めて提唱されてから既に50年以上もの年月が経っていますが、その真髄の確からしさに比較して、それほど浸透していないように思います。浸透しない理由はいくつもあるのでしょう。このリーダーシップ手法はリーダーによる傾聴から始まりますが、話は聞くがそこからの導きがあまり上手でない、こんなこともあるでしょう。

サーバントリーダーの対称として支配型リーダーを置いたとき、その違いは下図に詳しいです。[i]

成果を出す組織が、それを意識している、いないに関わらずに実践するサーバント・リーダーシップを実践するリーダーとはどうあるべきなのでしょうか。

私の経験から言うと、【テーマのみを与え、部下にそれを考えさせ、意見を傾聴・共感をし、適時良化のためのフィードバックを返しながら目標に向けた行動に伴走ができる】ことであると考えています。

これはまさに、サーバント・リーダーシップにおける「傾聴」と「共感」、そして「部下の成長支援」の姿勢を体現するものです。これが実現できれば、組織力強化と成果向上が期待できます。なぜなら現場が自走するからです。

現場が自走する!実践的課題改善5つのステップ

ここからは、サーバント・リーダーシップのマネジメント手法を参考にして私が実践し、変革効果を確認できた具体的な課題改善活動の進め方をご紹介したいと思います。皆さんの企業においても実行力を高め、生産性向上にも繋がる重要なステップだと信じています。

1. 課題設定は「ボトムアップ」から始めよう

初めに重要なのは課題設定です。課題とは解決すべきこと、です。解決すべきことをボトムアップで考えてもらうことから始めましょう、と申しています。日々抱えている悩みや問題も含め、解決すべき課題を現場の方々と一緒に設定しています。

よくあるミスは、「何でもいいから考えさせてアウトプットさせる」というような丸投げ姿勢です。ボトムアップだからといって完全にボールを投げてしまっては、組織課題の改善に結びつかない見当違いな課題設定がなされてしまいがちです。

そうしないためには、企業や事業にとって重要なテーマや課題検討の方向性をきちんと示した上で、ボトムアップでの課題検討・設定を行ってもらうことです。これは、サーバント・リーダーが部下の自律的な思考を促し、成長を支援する姿勢の表れと言えるでしょう。一足飛びにメンバーが自律的になるとは言いませんが、この姿勢を貫くことが課題の飛躍的な自分事化に繋がります。

2. 「なぜ?」を深掘り!課題の構造化と打ち手の導き方

次に実施すべきことは、設定された課題の構造化(深掘り)と改善打ち手の考察を実施してもらうことです。なぜなぜ分析やイシューツリー化といった手法が、この構造化にあたります。

課題の構造化により、課題の真因が明らかになると共に、自分たちの業務のどこがどう課題に結びついているかという因果関係が構造的に理解できるため、自分事化がより一層進みます。これはサーバント・リーダーが、部下の思考を深め、本質的な課題解決へと導くための重要な伴走プロセスです。

どれほど重要かをご理解いただくため、卑近な課題の構造化を以下に示します。実際の事業・業務課題はこれほど単純じゃない、とお思いかもしれませんが、そんなことはありません。因果関係とは実はシンプルなものです。

【図表|課題の構造化例】

ここまでくれば、なぜなぜの最後に出てくる真因に対して改善打ち手の考察をしていきます。

ここでよくあるミスとしては、設定された課題に対して「いきなり真因を突き詰めてしまう」、「構造化が実施されていないにも関わらず打ち手から考え始めてしまう」ということです。課題改善であるため成果にこだわりすぎ、この工程を一足飛びにしてしまうことがよくありますが、大きな成果のためにも、この工程は地道に時間をかけて実行していくことが重要です。

3. 絵に描いた餅にしない!打ち手の「詳細化」徹底ガイド

真因までたどり着いたら、その解決のための打ち手について検討する必要があります。その際、打ち手が抽象的にならないよう「誰が、いつ、何を、どこまで仕上げる」という詳細化を実施する必要があります。せっかく課題を構造化するために知恵を絞ったのですから、その解決策も中途半端にしたくないですね。

具体的には、打ち手のゴール・KPIの設定、アクションアイテム(AI)の洗い出しと完了要件の設定、実行者とデッドライン(DL)の設定です。

ここでよくあるミスとしては、「DL設定ができていない、打ち手で狙いたい効果・ゴールが明文化されていない、AIの行動・達成要件が明記されていない」といったことです。

この作業を怠ってしまうと、「打ち手は考えたが実行されない・遅い」、「本来考えていた効果が出ない」、「効果は出ているが目標達成につながっているのか不明」、「当初の構想とはズレたことが実行されている」といった事態に陥ってしまいます。

サーバント・リーダーは、この詳細化のプロセスにおいて、部下が具体的な行動計画を立て、実行力を高められるよう、きめ細かいサポートとフィードバックをしないといけません。ご自身の感覚からすると少し細かく感じられる程度がちょうどいいです。この「サポートとフィードバック&施策再検討の詳細化」も成果創出には切り離せない工程です。

4. 活動を加速させる「定期レビュー」の極意

そして最も重要な工程が、これまで述べてきたマネジメント・ポイントの定期的な活動プレビューとレビューです。我々はよく「事前・事中・事後」という言葉を使います。

段取り8割などと言われますが、事前に活動の詳細計画をチェックすることはとても大切です。長い時間をかける必要はありません。重要ポイントだけに絞り、そのかわりに必ず事前チェックをする。この行動習慣が定着すれば、業務遂行レベルは飛躍的に向上します。

事中のプロセスは部下を信頼して任せましょう。

事後の成果確認と振り返り、今後の進め方の確認は、現状のリアルタイム共有という重要なマネジメント行動です。手遅れになる前に問題の発見・対策検討を心がけましょう。

ここでよくあるミスとしては、「そもそも活動レビュー自体を実施しない」、「成果だけのヒアリングに徹してそのプロセスレビューを実施していない」、「命令や叱責に終始し、良い活動に対する賞賛がない」といったことです。これでは、部下のやる気が削がれ活動が鈍化・停滞してしまい、最悪な場合は数値を誤魔化してその場しのぎの場となってしまいます。

サーバント・リーダーは、この工程で成果とその成果が出たプロセスに着目し、良い活動に関しては賞賛して部下のやる気を一層引き上げながらも、懸念に対してはフィードバックを返すという協働体制を示します。これは、部下への奉仕と成長支援を体現する重要な場となります。

5. 終わりなき改善サイクルへ:継続ウォッチとテーマ設定

最後に重要なことは、目標を達成したとしてもそこで止めるのではなく、さらにジャンプした目標を設定して活動を継続させる、あるいは新たなテーマを与えて課題改善活動を継続させるということです。理由は2つです。企業の観点から言えば、日々新たな課題が発生しており、改善活動には終着点がないからです。そして部下の観点から言えば、ストレッチされたゴールは、成長の原動力であるからです。

往々にして、あるテーマについての目標を達成するとそこで改善活動が終了しがちですが、それでは一時的な改善にしかなりません。改善の本質はそれを常に続けることなのに、一つの改善目標を達成したらそれで終わりでは、せっかく身についていた改善活動のサイクルも忘れられ、自分事化も薄れていることでしょう。よって、サーバント・リーダーは、課題改善サイクルが完全に自走化するまでは、根気強くウォッチし、新たなテーマの設定を促し続ける必要があります。

上記の工程を絶えず繰り返していくことで、現場自らが課題を考え、常に自発的に改善活動を回して成果を出し続けられる組織へと成長することができるでしょう。

実際、私は上記の工程を繰り返し、改善活動を実行し続けることで、当初は「利益の出せない頭痛の種であった事業部」が、今では会社をリードする高収益事業部へと成長したクライアントと、今でもご一緒させていただいています。これはまさに、組織力強化と企業成長の好例と言えます。

短期解決と中長期成長:トップダウンとボトムアップの使い分け

ここまでをお読みになられて、「サーバントリーダーシップやボトムアップの重視はスピード停滞にならないか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。「トップダウンでズバズバ進めて行く方がよっぽど早い」と。そのお考えはわかります。

しかし、あくまで留意していただきたいのは、トップダウンでの改善活動は「短期的・コンティンジェンシー(偶発的)な課題」に限った手法であるということです。中長期的な課題解決や、組織の課題解決力の成長というものにフォーカスするのであれば、私は「ボトムアップでの課題設定による自分事化の進んだ課題改善活動」を強くお勧めします。なぜなら、それこそが組織能力の向上によるパフォーマンス向上だからです。

最後に

このコラムが、組織の課題改善力や改善活動の鈍化に悩まれている方々の一助になることを願っています。ぜひ、今日から実践できる課題設定とマネジメントのヒントを見つけていただけたら幸いです。

以上

引用

[i] https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/servant-leadership

お問い合わせ/メルマガ登録

また、アバージェンスのプロジェクト事例や研修事例にご興味がある方は、気軽に問合せフォームにご記入ください。担当者から連絡させて頂きます。


さらに、アバージェンスマネジメント研究所から発信される「AIMコラム」「マネジメントレポート」のメルマガを受信されたい方はこちらにご登録ください。

次の記事へ
  • HOME
  • コラム
  • 自分事化で成果を出す組織の課題設定力とは?